今回のエントリは、将棋関連の書籍紹介です。
プロ棋士の中でも、編集試験を経てプロになったという異例の経歴を持つ瀬川 晶司五段の半生を描いた自伝です。
本書について
概要
あきらめなければ、夢は必ずかなう!中学選抜選手権で優勝した男は、年齢制限のため26歳にしてプロ棋士の夢を断たれた。将棋と縁を切った彼は、いかにして絶望から這い上がり、将棋を再開したか。アマ名人戦優勝など活躍後、彼を支えた人たちと一緒に将棋界に起こした奇跡。生い立ちから決戦まで秘話満載。
(「BOOK」データベースより)
将棋界のレジェンド:加藤一二三九段の引退、藤井総太四段の公式戦29連勝、羽生善治棋聖による竜王位と永世七冠の獲得等、今年の将棋界のニュースは世間でも非常に注目されました。
2016年の初めくらいから将棋を初めて、まだまだ日の浅い私ではありますが(現在ウォーズ1級)、将棋がメディア等で取り上げられる機会も多くなり非常にうれしく思っております。
さて、今回の著書の筆者である瀬川晶司五段ですが、1970年3月生まれで、今年で47歳。
前述の羽生善治永世七冠は1970年9月生まれの今年47歳なので、年齢は同じなので、早生まれにつき瀬川五段の方が学年は1つ上ということになります。
瀬川五段はプロの将棋棋士なのですが、特筆すべきはその経歴。
将棋のプロになろうと思った場合、まずは将棋連盟の養成機関である奨励会に入会し、そこで四段まで上り詰める必要があります。
将棋の段位は、アマチュアとプロで大きな差があり、奨励会に入会するには入会試験があるのですが、だいたいアマチュア3~5段の実力があって初めて試験に合格できるとのこと。
奨励会入会後は6級から始まるようなので、アマチュア3~5段=プロ6級と言えます。
また、年齢制限もあり、満26歳までに四段に昇段できなかった場合は退会となります(その他細かい規定あり)。
ちなみに、三段から四段になれるのは年に4人(フリークラス編入など、例外アリ)。
全国から天才少年・少女が集まって、その中でプロになれるのは一握りという、非常に厳しい世界です。
さて、今回の著書の筆者である瀬川五段ですが、中学生のときに、全国中学生選抜将棋選手権大会で優勝した経験があり、2度目の奨励会入会試験に合格し、はれて奨励会員となります。
※著書内では、将棋選手権を見に来ていた、同じく当時中学生の森内俊之九段の描写があったりします。
会員時代は、1級で1年9か月停滞しましたが、21歳で三段になります。…が、年齢制限までに四段に昇段することができず、残念ながら奨励会退会となります。
著書内でもありますが、退会が決定したその日に自殺を考えたとのこと。すさまじい心理描写が描かれています。この著書の大きな山場です。
奨励会大会後は、一度は将棋の思いを捨てますが、将棋を伸び伸び指す楽しさに気づき、アマチュアに復帰されます。
大学卒業→就職と経て、社会人生活を送る傍ら、アマチュアではありながらプロ棋士に好成績を収めます。
そして、有志の協力もあり、遂に日本将棋連盟に対し、プロ編入の嘆願書を提出。
当時の将棋連盟の会長である故・米長邦雄永世棋聖や、全棋士の多数決による賛同も得られ、編入試験が実施されることに。
編集試験は、推薦された棋士6人と対局し(1局目の相手が、当時奨励会員で3段だった、佐藤天彦名人)、3勝すれば合格というものでしたが、5局目までに3勝2敗とし、35歳にして、はれてプロ編入となったのでした。
感想
本書を手に取ったのが、丁度、今年、瀬川将棋五段と藤井総太四段の対局があった頃でした(当時、藤井四段はプロになって負けなしの連勝中でした)。
史上五人目の中学生プロである藤井四段と、アマチュアからプロに編入した瀬川五段という、異色の経歴を持った二人の対局ということで、ニコ生で観戦していたのを覚えています。
※この時の記録係が、里見香奈女流棋士。女流棋士であり、数々のタイトルと手にしながら、奨励会三段リーグ挑戦中という、この方も異色の経歴の持ち主。
この本でのポイントは、ご本人の意志と人格、そして、賛同してくれた有志の方々の協力、の2つだと思っています。
当然のことながら、実力がなければプロにはなれないと思いますので、ご本人の実力と努力は相当なものであると思います。
そして、もう一つは、有志の方の協力という点。
本書からもご本人の性格の良さがにじみ出ているように感じられますが、幼少期からプロ編入移行に至るまで、多くの方が瀬川五段の味方をされているように思います。
非常に壮絶な人生を歩まれているとは思いますが、編入試験時に送られてきた小学生時代の恩師からの手紙や、プロ編入後のラジオ番組中での将棋の恩師からの返事等、心温まる、涙腺が緩むようなエピソードがちりばめられており、読後感も非常に良かったです。
私自身も、プロに編入した頃の瀬川五段と同じくらいの年齢ということもあり、この本に影響を受けた部分があります。
好きなことをあきらめずに貫くというのは、ジャンルを問わず非常に大切なのではないかと思います。
将棋ファンの方はもちろんのこと、そうでない方も一読いただけるとよいかと思います。
最後に
本書では直接触れられてはいないですが、将棋に関する格言で、もう一つ好きな言葉として「常に指した手が最善手」というのがあります。
※こちらの羽生善治永世七冠のインタビュー記事より抜粋
こちらは、私としては、次の手で何を打てば良いかわからない場面に出くわした場合、人間なので迷うことは当然あるので、そうなったら、自分の一番指したい手を指した方が良い。それが最善手。そして、一度指した手は、残念ながら待ったをすることは難しいので、その手が最善になるように努力をしていけばよい、と解釈しています。
羽生さんの著書としては、最近下記を読みました。
2005年発行なので、今から10年前、つまり、30代半ばの頃の羽生さんが書かれたものですが、こちらも面白かったので、紹介させていただきます。
また、瀬川五段がプロに編集されて以降、正式に編集試験が制度として設立されたのですが、この制度によって、プロになった人物として、今泉健司四段がおられます。
この方も著書を書いておられるので、リンクを貼っておきます。時間があれば読んでみようかと思います。
ちなみに、「泣き虫しょったんの奇跡」は、2018年に映画化されるようです(※日本将棋連盟のページ)。
将棋関連の映画としては、最近では、聖の青春や三月のライオンが実写化されたことが記憶に新しいですが、こちらも楽しみです。
今回紹介した著書
追記:映画版「泣き虫しょったんの奇跡」の感想
2018/09/07(金)に映画版「泣き虫しょったんの奇跡」が封切りされました。
早速初日に見に行ったので、感想記事を書いてみました。
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【映画】泣き虫しょったんの奇跡のあらすじ・評価・感想:良作!原作未読の方は、原作も是非読むべし!!
引用元:http://shottan-movie.jp/ 「泣き虫しょったんの奇跡」を観てきました 2018/09/07(金)に封切りされた、映画「泣き虫しょったんの奇跡」ですが、公開初 ...
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